近年、人の医療では歯の予防歯科が非常に重要な役割をしており、動物でも同様のことが言われるようになってきました。
動物は歯の痛みなどをあまり伝えることができず、痛みや不調を隠す傾向があります。その結果、ご家族が症状に気付く頃には病気が進行していることも珍しくありません。また歯周病と全身疾患との関連性があるため、重度の歯周病に進行すれば、さまざまな健康を害する危険性も高まります。
口臭が気になる、口を触るのを嫌がる、食べ方が気になる場合は検診をすることをお勧めします。
当院では人間の歯科と同等の歯科ユニット2台および歯科用のデジタルレントゲンを備え専門的な治療を行っています。
また、人の歯科医療では一般的になりつつあるコンビームCT※を導入し、根の病巣、歯の破折、歯周病の状態診断がより正確に行うことができ、治療計画が立てやすくなり、治療の安全性も以前に比べると格段に向上しました。(※動物の体格により行えないことがあります)
治療にあたり、人の歯科医療でも導入率が10%程度とされているマイクロスコープ(手術用顕微鏡)を導入しており、今まで治療する際に肉眼ではよく見なかった歯の隅々まで治療を行うことができるようになりました。また、基本的な歯周病治療を始め、歯の神経を治療する根管治療がより細やかに行うことが可能になりました。
1.問診
全身麻酔を行う前に、血液検査、レントゲン検査を行います。
外貌の指針及び口腔および口腔周囲の視診および触診を行います。
2.麻酔科による口腔内検査
エキスプローラー、プローブなどを用いて歯周病の評価を行います。
場合により、歯垢検査用ライトを用いて歯垢の付着度を調べます。
歯垢用検査ライトによる検査(赤く光っているのが歯石です)
3.口腔内X線検査
口腔内病変を適切に診断するためには非常に重要な検査です。
専用のデジタルX線画像診断装置を用いることで、診断に適した画像が得られ、またX線の被ばく量を少なくすることができます。それぞれの歯における歯周組織の状態を確認し治療方針を決めます。
歯科用X線による歯の写真
4.スケーリング、
ルートプレーニング
スケーリングとは、超音波スケーラーを用いて、歯冠~歯根に付着した歯垢、歯石などを機械的に除去する処置です。 またルートプレーニングとは、スケーリングにより除去しきれない歯根面についた歯垢、歯石および細菌塊は、キュレットにより滑沢にする処置です。
5.ポリッシング
ポリッシングブラシとラバーカップを用いて、荒さの異なる2種類の研磨剤を用いて歯の表面をツルツルにします。この処置を行うことにより、歯石が付着しにくいようになります。
処置前の写真
処置後の写真
歯の状況により、歯周病処置のみでは治療が困難な場合は、抜歯や歯根充填治療等を行います。
歯周病
歯周病が認められる歯の写真
根尖周囲病巣
根尖病巣による瘻管形成
歯が折れて歯髄が露出していたため
感染していました
悪くなった歯を抜いて縫合しました
抜いた歯です
口腔鼻腔瘻
口腔鼻腔瘻の例①
くしゃみ鼻水が認められました。
見た目はそこまで悪くなかったのですが
プローブが奥まで入ってしまいます。
プローブを奥に入れると鼻血が
認められました。
抜歯を行うと歯根の骨が溶けており鼻腔と
つながっていました。
粘膜フラップを作成し、穴を閉じました。
口腔鼻腔瘻管の例②
重度の歯周病で、気管挿管時に歯が抜けて
しまうぐらいでした。
歯を抜くと、犬歯~臼歯間の上顎の骨が大きく溶けて
鼻腔が丸見え状態でした。
大きな粘膜フラップを作成し何とか
閉じることができました。
歯の破折
固いものを噛むことによって歯が折れることがあります。
口内炎
吸収病巣
破骨細胞が活性化することにより歯が溶けて吸収されてしまう病気です。3歳以上の猫の半数が罹患しているという報告もあります。
猫の吸収病巣
下顎の前臼歯の歯肉が赤くなっています。
下X線撮影を行うと歯冠が黒く抜けていることで
歯が溶けており、歯の一部が下顎の骨に吸収
されてしまっています。
治療は抜歯処置になります。
犬の吸収病巣
第4前臼歯の表面が赤くなっていて、
触ると痛がります。
ピンクスポットと言われ、外傷などで歯髄が
損傷し、出血したりするとできます。
歯髄側から徐々に象牙質が壊されて、
スカスカの歯になり、歯髄の色などが
透ける「内部吸収」の状態になっています。
X線撮影をすると歯質が欠損しています。
腫瘍
上顎にできた悪性黒色腫(メラノーマ)です。
歯科治療を行うには全身麻酔が必要になります。
歯科治療を無麻酔で行う危険性が指摘されており、当院ではお勧めしていません。(ガイドライン | 日本小動物歯科研究会 (sadsj.jp))
重度の歯周病に罹患している動物の多くは高齢です。そのため多くの飼主様は、麻酔を行うことを心配されます。高齢の動物は、麻酔をかけるにあたり若齢の動物に比べ低血圧、徐脈、麻酔が覚めにくいなどの合併症の起こる可能性が高くなります。全身麻酔を行う際には、心臓、肺、肝臓、腎臓、代謝などの全身状態を事前に十分に把握することで、できる限り麻酔のリスクや負担を軽減することで歯科治療を行います。
また高齢になり麻酔のリスクが心配になる前に、若いうちから定期的な予防、治療を行っていくことをお勧めします。
小動物歯科研究会レベル4認定を取得した獣医師が歯科診療を行っています。
くわしくは当院までご連絡、ご相談ください。