2024年も終わりに近づいてきました。
当院では通常診療に加え、少しでも獣医療に貢献できるよう学術活動を行っています。
本年は1本の論文発表と4本の学会発表を行いました。
(論文執筆)
論文タイトル:モルヌピラビルの短期投与により寛解した猫伝染性腹膜炎の猫 2 例
著者名:佐橋悠、佐橋三和子、中東礼子、日笠喜朗
動物臨床医学(査読あり)
猫伝染性腹膜炎(FIP)は、猫腸管コロナウイルスの変異によって引き起こされる大変予後の悪い疾患です。 GS-441524 の投与が FIP の治療に有効であることが報告され、FIP治療薬として注目されています。 しかし、この薬剤は、ムチアンなどサプリメントとして販売されている高価な非正規製品もしくは試薬として入手する必要がありました。 これらは非正規の未承認薬であり、倫理的に問題のあるコピー製品であるため、代わりになる治療を検討する必要がありました。
新型コロナウイルス感染症の流行により,新規の抗ウイルス薬が入手可能になりました。モルヌピラビルは,新型コロナウイルス感染症の治療薬として FDA による緊急使用承認(EUA)の下で入手可能になり,猫の FIP においても有効性が報告されています。しかし,FIP 治療におけるモルヌピラビルによる詳細な治療報告は未だ少なく,様々な病態の症例に対する用量および投薬期間などは定まってません。
今までの報告ではモルヌピラビルの投薬期間は , 12 週間程度が推奨されていますが、これは Pendersen らによる GS-441524 の報告に基づいているため、学術的な根拠が乏しいと考えます。
今回、FIP においてモルヌピラビルをより短い投与期間で治癒し、その後再発の認められていない2症例に遭遇したためその経過を報告させていただきました。FIP においてモヌルピラビルは臨床所見が消失した時点で休薬しても治癒する可能性があることを示した報告となります。
(学会発表)
発表演題:X線およびコンビームCTを用いた小型犬における吸収病巣の評価 .
発表者:佐橋 三和子, 佐橋 悠, 中東 礼子, 日笠 喜朗
日本小動物歯科研究会症例検討会 :東京(3月)
歯根吸収は犬、猫、人などで報告され、偶発的なX線所見として認められるものから、炎症による痛みを伴う治療の必要なものがあります。猫の吸収病巣は多くの報告があり、病態分類は病変の正確な位置や種類より、吸収過程の程度が重視されています。一方、犬の吸収病巣の分類はAVDCのNomenclature Committeeによる吸収病変の程度に基づいた5段階分類法やヒトの分類方法に基づいた分類の報告がありますが、猫に比べ犬の吸収病巣の分類報告は少なく、疫学的側面も不明です。本発表は、小型犬における吸収病巣をX線およびコンビーム式CT(CBCT)を用いて分類し、有症率を調べ発表を行いました。
発表演題:慢性腎不全の犬に対して歯科処置を行った2例 .
発表者:佐橋 三和子, 佐橋 悠, 中東 礼子, 日笠 喜朗
日本小動物歯科研究会症例検討会:東京 (3月)
歯周病が全身に与える影響とその関連性が認識されつつあります。歯周病由来の局所の炎症が全身に波及し、口腔から離れた組織に悪影響を及ぼすと考えられています。人においては、歯周病と腎不全との関連性が深く、歯周病が腎機能の低下を促進する一方、歯周病治療によって腎不全が改善するという報告があります。犬においても歯周病と慢性腎不全の重症度の関連性が示唆されていますが、腎不全における歯周病治療の効果に関する報告はありません。本発表は、慢性腎不全の犬に歯周病治療を行うことで、腎機能パネルの改善を認めた2例を経験したので、その概要を発表しました。
発表演題:X線およびコンビームCTを用いた小型犬における吸収病巣の評価 .
発表者:佐橋 悠, 佐橋 三和子, 中東 礼子, 日笠 喜朗
動物臨床医学会年次大会 (2024):大阪(10月)
この発表は3月に日本小動物歯科研究会で発表したものに症例数を加え改めて発表を行いました。
発表演題:犬の肺動脈狭窄症(PS)に対するイマチニブとシルデナフィル併用長期治療の1例
発表者:佐橋 悠, 日笠 喜朗
日本獣医循環器学会定例大会(2024):大阪(12月)
肺動脈狭窄症(PS)は、犬における先天性心疾患の一つであり、その発生率は比較的高く、先天性失疾患の32.1%に達することが報告されています。PSは肺動脈弁付近の狭窄によって右心室から肺への血流が制限され、右心室に過大な負荷をかけます。軽度のPSでは治療を必要としない場合もありますが、重度の場合、右心室への血液のうっ滞が心不全を引き起こすことがあります。イマチニブはPDGF受容体のリン酸化を阻害することで、慢性骨髄性白血病や肺高血圧症(PH)の治療に効果があるとされています。一方、シルデナフィルは選択的ホスホジエステラーゼ5阻害薬であり、肺血管抵抗を低下させる作用があります。本報告では、イマチニブとシルデナフィルの併用療法がPSを有する犬の症例において有効であった経過を報告しました。
また日本獣医師会近畿地区三学会審査委員をさせていただき、動物臨床医学会年次大会および日本獣医循環器学会では症例発表の座長を務めさせていただきました。
今後も継続的に学術的な活動も行っていきたいと思います。
よろしくお願いします。