猫伝染性腹膜炎(FIP)は猫腸コロナウィルスのウィルス変異によって引き起こされる致死率が高い病気です。
FIPに対する治療効果薬として、様々な抗ウィルス薬が試されその有効性が示されています。しかしその薬剤の合法的な製品は一般的に入手できません。そのため出所不明の製剤がインターネット上にみられるようになり、それらの非正規の薬剤を使用する飼主さんをみることが増えました。
インターネット上でよくみかけるものでMutianというものがあります。Mutianは中国製サプリメントの位置づけで、有効成分はGS-441524だと考えられています。Mutianが有効であるという論文も存在しますが、その論文がアクセプトされるまでの査読者とのやり取りの中で、査読者がMutianを独自に入手し成分を調べたところ、GS-441524(と思われる成分)が10 mg含まれているとされているものが実際には18 mg含まれていたそうです。そのため薬として信用性がないと述べられています。
FIPに罹患した子になにかしら治療してあげたい気持ちは十分に理解できるのですが、上記の理由よりMutian を使用することは、倫理的・金銭的問題があると判断し当院としては使用には至っていません。
輸入代行業者がレムデシビルに取り扱いを始めたましたので、FIP治療の選択肢してレムデシビルの導入をしました。
レムデシビルはGS-441524のプロドラッグであり、RNAウィルスに対する広い活性スペクトラムを持つ抗ウィルス薬であり、新型コロナウィルス感染症の治療薬の一つとして知られるようになった薬です。オーストラリアでは以前より獣医師も合法的に入手が可能であり、その有効性が明らかにされています。また同様にイギリスにおいてもFIPに対してレムデシビルによる治療が行われれています。
猫の臨床症状により支持的治療が必要ですし、二次的な免疫介在疾患(免疫介在性溶血性貧血など)を発症するケースもありステロイドの投与も必要になることあります。再発等のリスクはありますが、奏効率は80-95%との報告もあります。
高価な薬ではありますが、有効性が期待できる薬剤ではないかと考えています。
また同時にモヌルピラビルの取り扱いを開始しました。
モルヌピラビルは、新型コロナウィルス感染症の治療薬として開発された経口活性がある抗ウイルス薬です。合成ヌクレオシド誘導体N4-ヒドロキシシチジン(EIDD-1931)のプロドラッグであり、ウイルスのRNA複製時に複製障害を生じさせることで、抗ウイルス作用を発揮します。
薬が安価であり、治療費がレムデシビル等に比べ1/10~1/3程度になります。
モヌルピラビルのFIPに対して高い有効性が確認されていますが、細胞毒性は強いとされています。人よりも高用量で長期間の投与を行うことになるので催奇形性や発がん性とリスクがあり、その安全性の確認が十分ではないとされています。そのため気軽に勧められる治療ではなく、レムデシビル等が効かない場合の第二選択という形で推奨されています。
これらの治療はまだ標準治療ではないことは十分にご理解ください。
依然不治の病とされているFIPですが、今後様々治療法が出てくることで治癒する猫が増えたらと願います。
もしレムデシビル等の治療を検討されたい方はご連絡ください。
これらの薬剤は数に限りがありますので来院される前に一度お電話を頂けたらと思います。